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三好達治 土

一瞬のうちに映像を切り替える、
私たちが持っているすばらしい能力です。
 「ことば」が創るイメージの世界に、
詩人たちは挑戦を続けます。

   土
          三好 達治

蟻が
蝶の羽をひいて行く
ああ
ヨットのようだ
        
 三好達治『少年少女のための日本名詩選集12』あすなろ書房

【 比喩のおもしろさ 】

「アリって働き者だなあ」
そういう感想を持って眺める子もいるでしょうし、
「どこへ連れて行かれるんだろう、怖いなあ」
こんな思いで眺める子もいることでしょう。

(蟻)がおそらくは死んでいるか、
抵抗できないほど弱っているかの、
〈蝶〉を巣に運んでいく作業。
〈蝶の羽をひいて行く〉様子。
現実の、日常の、ありふれたできごと。
だれもが一度は見たことのある光景を描いた詩です。

この詩で、話者はその様子を

ああ
ヨットのようだ

と表現します。
ちょうど、
片方の羽が立ったような状態のままで運ばれていたのでしょう。
するすると地面をすべるように動いていく様子、
それがまるで海面や湖面をすべるヨットのように見えた、

ああ
ヨットのようだ

うまく捉えた比喩表現です。

もちろん、
この詩の魅力はここに留まるものではありません。
詩の世界・文芸の世界では、
比喩表現によって、
しばしばおもしろい現象が引き起こされます。

ひとつには、
「喩えるものと喩えられるものの関係が逆転する」
 (冬の章 黒田三郎『紙風船』のページを参照してください。)

ふたつには、
「喩えに使ったものが、別な他のもののイメージまで引きずってくる」
 (みんながよく知っている
  レオ・レオニ作『スイミー』では、
  ちいさな魚のきょうだいたちの暮らす海に、
  おおきなマグロが
  ミサイルみたいなはやさでつっこんできた。
 という比喩があります。
 本来はスピード感を表すための比喩ですが、
 ミサイルの持つ、
 爆破=生活の破壊・多くの死というイメージを
 同時にひきずって来て、
 二倍三倍の怖さを感じさせます。)

みっつめには、
この詩がそうなのですが、
「喩えに使うものが、
 場面全体のイメージまで一気に変えてしまう」
ということがあります。

この詩で
〈蟻が
 蝶の羽をひいて行く〉
その様子を
〈ああ
 ヨットのようだ〉
と言っています。
この比喩によって、
本来は「土」と題された、
土の上で繰り広げられていた場面=世界が、
一瞬のうちに、
がらりと海や湖などの場面=世界に変わっていくのです。
〈ヨットのようだ〉
と喩えたために、
眼前での、卑近な、
ミニマムな世界が、
広大な視野が広がる、
マキシマムな世界に変貌を遂げていくのです。
現実では
蟻が死んだ蝶を運んでいるのにすぎないのだけど、
その現実をはるかに超えて、
青い大海原を
静かにすべるように進むヨットが目に浮かぶ。
死んでいるはずの蝶なのに、
生命の躍動感・たくましささえ感じます。

おそらく、
スーパーコンピュータでも計算できないような、
イメージの豊かさ
発想の柔軟さ
切り替えの速さ
を持つわたしたちの脳。

ことばの持つ力のすばらしさを思わずにはいられません。
ちなみに、
比喩表現ではありませんが次の詩も読んでみてください。
感動をもって読める詩ではないかと思います。

クサッパラ    
     イケダ ショウゾウ (小学1年)

アア、
クサガヌッカ。
ニェガスット。

(注) ヌッカ あたたかい
    ニェ  におい
    スット するよ

この詩は、戦後まもないころに、
鹿児島で生まれた有名な児童詩です。
戦争はおわりました、恐怖は去りました。
しかし、
人々の生活はきびしく、
子どもは一家の貴重な働き手でした。
ショウゾウさんはきっと、
牛や馬など家畜の世話をしていたのでしょう。
草や稲わらで家畜を育てる、
敷きわらに吸い込まれたふん尿が肥しになる、
その肥しが畑や田んぼにすきこまれる、
豊かな土壌から野菜や米がとれる、
野菜やお米が育つ間に、
畑や畔の草を刈りとり、
稲わらが家畜の餌になり、
育った家畜は市場で売れて一家の糧になり、
子どもの本やノート代になる、
当時の鹿児島は、
こういう小規模な貧しい農家がほとんどだったのです。
こうした生活背景から、
この詩は生まれました。

小学一年生のショウゾウさんは、
今日もその小さな手で鎌を持ち、
刈りとって運んできた草を、
家畜に声をかけながら食べさせ、
ふんと尿にまみれた重たい敷きわらを運びだし、
新しい稲わらを敷いてやったことでしょう。
それでも子どもは子ども、
遊びたい盛りです。
青い草原に体をなげだし、
積み上げた草にもぐったことでしょう。
そのとき、
ふと感じたクサのぬくもり――
ふくいくとしたクサのにおい――

たった三行の、
子どものつぶやきです。
しかし、
はかり知れないほどの奥行き・広がり・深さを感じます。
ショウゾウさんも、すごいと思いますし、
この三行を「詩」ととらえた、
ショウゾウさんの先生も、すごいなあと思います。

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テーマ : 詩・ポエム
ジャンル : 小説・文学

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